田中 みな 実 学生 時代
さすがシェイクスピア、やはりただの ドタバタ喜劇ではないし、媚薬という 魔法の効力に驚く不思議物語にとどまる ものでもありませんよね。 たとえば大詰め【第四幕】でのハーミアと ヘレナの意味深なセリフを思い出して みましょう。 いわく「左右の目が別々にものを見てる みたい、何もかもが二重に見える」、 「〔ディミートリアスが〕私のもので あるような、ないような」…。 こういう二重性の状態は、実は人間 だれしもに始終発生しながら、たいていは 意識しないですましてきているものでは? 精神分析の用語でこれを「抑圧」と呼ぶ こともできますが、そういう抑圧を一気に 極端な形で解き放ってしまうのが、この劇の 重要な小道具となっている「浮気草」(媚薬)… だという解釈も可能でしょう。 つまり、たとえば「愛する/嫌い」は むしろ表裏一体。 「きれいはきたない。きたないはきれい」 (『マクベス』の魔女のセリフ)というのが シェイクスピアの人間洞察の一つ。 極度に喜劇的な展開で爆笑させながら、 この種の二重性というか、人間の深い ところの矛盾を暴きだしてしまうあたりに 『夏の夜の夢』のすごみがあるのでは? とすれば、この二重性はこの劇に並立 していた3つの世界のすべてに行き渡って いるという見方も可能になります。 例の素人劇団なら、主役のボトムが役柄の ピラマスと実生活上の職人との間を舞台上で 行ったり来たりしてしまうという二重性に その表現が見られるわけです。 このことについてより正確に知るには、 彼らが上演した『ピラマスとシスビー』 の内容にも立ち入る必要がありそう なんですね。 『ピラマスとシスビー』とは?
透き通るように美しいヘレナ! 自然のなせる不思議なわざ、 その胸の奥に君の心が見通せる。 ディミートリアスとは決闘だとまで 息まくので、ヘレナはびっくり。 彼がハーミアを愛していても、 ハーミアはあなたを愛してるんだもの、 「満足しなきゃ」となだめるが、 ライサンダーは「いやだね」と即答。 ライサンダー 悔しくてたまらないよ。 あいつといっしょにぐだぐだした 時間を過ごしていたのが。 〔中略〕 誰だってカラスなんか鳩と 取り替えたいと思うだろ?